【SF】もし地球から酸素が無くなったら、ヒトは生きていけるか?
皆さんは、小さいころから酸素が大切ということを学んできたでしょう。
そのときは酸素が勝手に細胞の栄養素になると勘違いしていました。
しかし、本当に必要なのはATPということを学びます。
そんな学習をしているうちに、僕はこんなことを思いました。
「だったら、ATPとか糖をたくさん与えれば、酸素って無くなっても大丈夫じゃない?」
この記事を読めば、あなたの周りにある酸素がどれだけ大切なのかが分かります。
薬学部生が面白半分で考えた妄想にしばしお付き合いください。
参考文献
酸素の体内での役割
酸素は栄養?
「酸素という物質がどんなふうに働いているのか?」
子どもの頃からそんなことを考えていた人はきっと頭も良かったでしょう。僕はそんなことを考えたことはありませんでした。
細胞が酸素を吸収して、代わりに二酸化炭素にして放出するからサイクルが上手く回っているのだと考えていただけです。
今考えれば、酸素分子が二酸化炭素分子に変化するということがあり得ないことは分かりますが、それを子どもが理解することは難しいです。
原理は高校や大学の生物の授業で知ることになります。酸素は直接栄養素となるのではなく、酸化的リン酸化によるATP合成に使用されていることを知ります。
また、酸素は二酸化炭素ではなく水になるということもテストで問われることがあるくらい重要です。
ちなみに吐いた息に含まれる二酸化炭素は、いったいどこで生成されるか覚えていますか?
答えはクエン酸回路です。これを忘れている人は復習しましょう。
酸素なしが可能になりそうな仮説
結論としては、ATPが細胞に届けばいいということです。(脳はATPではなくグルコースを必要としますが、今回は面倒なので考えません。)そこで、今回の妄想が現実になる可能性のある仮説を2種類用意しました。
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酸素の補給をすべてATPに変えてみれば酸素が無くても生きられる説
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飴をなめながらダイビングしたら嫌気呼吸によって息をしなくても苦しくならない説
ツッコミどころ満載の内容であることは間違いないですが、少しでも生化学に興味をもつ人が増えてくれたら嬉しいです。生化学を勉強している方は、呼吸の内容を印象に残して頭の片隅にしまっておいてください。
生化学で重要な話題とその他大切なことは太文字になってます。
糖代謝と関連付けて話を進めていくので、何かしら役に立つと思います。そしてこの仮説には間違いがいくつかあるので、それを考えながら読み進めると、自分の力になると思います。
それでは二つの仮説を順番に見ていきましょう!
酸素の補給をすべてATPに変えてみれば酸素が無くても生きられる説
ATPを全身に供給する方法
先ほどお伝えした通り、酸素が栄養になるのではなく、酸化的リン酸化を進めるために、人は呼吸をしています。(他でも酸素は使われるが、今回は蓋をしておく)それなら、最初からATPを供給してあげればいい話です。
僕はATPを石油から作れるマシンを開発することを提案します。
マシンの仕組みはこちらです。まず、装置内で石油を燃やします。そこで出てくる熱エネルギーを利用して、装置内にあるリン酸とAMP or ADPを結合させます。体内ではATPがどんどん使用され、AMP or ADPとなるので、それを装置に再び転送するというわけです。
これなら、石油をエネルギー源として使うだけで、ATPが作れるというわけです。地球から空気が無くなるという噂が昔広まったことがありましたが、このマシンならそんなことが起きても問題ありません。なぜなら、石油は山ほどあるからです。
それでは、この仮説の問題点を探りましょう。
ATP自動供給仮説の問題点
まず、エネルギーと言えば化石燃料です。太陽光発電などはまだ効率が良いとは言えないからです。ただ、この化石燃料は効率のよいエネルギー変換を行うことができるのでしょうか?
答えはノーです。
みすぼらしい図ですみません。
ヒトの体内ではこれよりも遥かに効率の良いエネルギー変換を行うことができます。なぜなら、ヒトの体内では酵素が働いているからです。車は爆発的なエネルギーを燃焼によって生み出しますが、体内でそんなことしたら死んでしまいます。
つまり、どれだけ化石燃焼があったとしても、体内で作られるATPを外で作るということはめちゃくちゃ大変なのです。
もう一つの問題点は、酸素が無くなったら、石油を燃焼させることも出来ないということです。仮説の立て方に問題がありました。プロセスは違いますが、結局は酸素を使って酸化反応を起こすことで、エネルギーを生み出しています。
飴をなめながらダイビングしたら、嫌気呼吸によって苦しくならない説
生き物は意外と酸素いらないかもという話
遥か昔、まだ生物が海中で誕生したての頃、酸素を使うことができる生物は存在しませんでした。しかし、生き物は命を繋ぐことができていたのです。「一体どうやったらそんなことできるのか?」その疑問を解決する方法は嫌気呼吸です。
現在もこの呼吸をして生きている生き物は存在します。薬学部でも習う生き物の例で言うと、大腸菌がそれに当たります。大腸菌は、嫌気性菌といって、酸素がなくても発酵や嫌気呼吸をします。この呼吸は酸素を使わずに呼吸を行うことができます。
酸素を使わない呼吸というのはしっくりこないかもしれません。そんなときは、「呼吸とは命を繋ぐための行動だ」というふうに覚えてください。
地中にいようが、体内にいようが、酸素を吸おうが、呼吸は必要なのです。
ここで驚くのが、ヒトも嫌気呼吸するということです。その代謝経路が解糖系と呼ばれます。(糖代謝の図を参照)短距離走をしたとき、無意識に息を止めて走っていませんか?これは筋肉が嫌気呼吸をしている証拠です。
そこで思いました。
「ヒトも嫌気呼吸できるなら、飴を舐めておけば多少効率が悪くても息が長く続くんじゃない?」
しかし、これは検証の方法が無いので、今回は机上の空論ではありますが、どうなるかを予想したいと思います。お風呂場で試すのは危ないのでやめてください。
(実はこの画像をタッチすれば飴を買うことができるという謎のシステムですが、買わなくていいです。面白いだけなので。)
机上の空論タイム
まず、解糖系だけでエネルギーを産生するということについて考えます。この方法、実はかなり効率が悪いです。なぜなら、1分子のグルコースを代謝したときに生み出されるATP量は、酸化的リン酸化まで代謝したときと比べて、1/15倍しかないからです。
筋肉細胞のATPは運動をすれば一瞬で消えます。じゃあ何でそんな量しか貯められてないの?って思いますが、この原因はエネルギーバランスを保つために作り過ぎないように調節しているためです。
さらに、この仮説を立証するためには呼吸の15倍飴を舐めなさいという話ですが、15倍って何と比較すればいいのでしょうか。普段の15倍のご飯を食べるというならそれは不可能でしょう。
そもそも、エネルギーを吸収するためにもエネルギーが必要なのです。潜っているときに苦しいなあと思ったり、息を止めるために口に力を入れるときも同じです。
さあ、答えは出ました。
結論:無理です。
なぜ、好気呼吸が必要なんだとまだ思っている方もいるかもしれません。実は、生物は進化は酸素を使いATPを効率的に合成できるようになったことで進化できたのです。
細菌のような単細胞生物から、より複雑であるヒトのような多細胞生物へと進化する過程には、そんなドラマがあったのです。酸素が使えるから進化できた生物が酸素を使わない生活を営むことは不可能でしょう。
まとめ
最後までお読みいただきありがとうございます。
今回は酸素が無くなったらという仮説を立てて、糖代謝の大切さについて学びました。
少なくとも人間の生活には酸素が必要だということだけでも覚えてください。
面白いと少しでも思ったら、研究室配属されるときに生化学や細胞生物学の分野を選んでさらに詳しく学ぶことをおすすめします。
最初に貼った参考文献にはさらに興味を惹く内容が書かれているので、そちらも是非どうぞ。